【継業ストーリー】郡上市高鷲町
北村 美湖さん×「ベーコン小舎GRUN」安田 瑞彦さん×「TOCORO COFFEE」所 益丈さん
岐阜県の郡上市北西部に位置する高鷲(たかす)町は、清流として名高い長良川の源流に位置し、東西に山脈がそびえる、静かな山あいの里です。
四季折々の自然を楽しめるスポットが多く、春から秋にはひるがの高原をはじめとした観光施設へ、冬にはスキー場へ県内外から多くの人が訪れています。
三重県の鳥羽市出身の北村 美湖(きたむら みこ)さんが岐阜県に移住されたのは4年前。
自然の中で暮らしを楽しむ北村さんは、地域に愛される2つのお店を継業することになりました。
他に例をみない2店舗の継業!そんな北村さんの継業ストーリーを皆様に少しだけご紹介しますね。
【自然のなかで暮らしたい! 岐阜へ移住】
北村さんは、大学2年生からキャンパスのある青森県で暮らし始めました。動物が好きだったこともあり、大学では獣医学を専攻し、休日には北海道へ出かけるなど、自然に触れ合うことが好きだったと言います。
大学卒業後の進路については特段深く考えていなかったのだとか。
「自然の中での暮らしがしたい!」その思いから、いつでも気軽に三重の実家に帰ることのできる岐阜県に目を向けたそうです。
そして北村さんは岐阜県内1度目の移住先となる、白川郷で有名な岐阜県白川村に移住しました。
【自然豊かな湖畔にて、偶然の出会い】
村に来てすぐ北村さんは、岐阜・石川・福井・富山の四県にまたがり、信仰の山、日本三大霊山としても有名な「白山(はくさん)」登山へ出かけました。
白山の麓にはエメラルドグリーンに輝く、美しい白水湖が広がります。北村さんは湖畔にある白水湖畔ロッジを訪れるのですが、このロッジでの出会いが北村さんの人生を大きく左右することとなるのです。
この白水湖畔ロッジは、宿泊ができる山小屋として、また、美しい白水湖を眺めながら食事やコーヒーを楽しめる休憩所として、登山者に愛されている拠点です。
ちなみにこのロッジは県が運営する森と木に関わるスペシャリストを育成する専門学校【岐阜県立森林文化アカデミー】にて建設された施設で、当アカデミー1期生であった所益丈さんが管理・運営されていました。
大学時代からコーヒーが好きで、ハンドドリップにも興味があった北村さん。
その場で「コーヒーの作り方を教えてください!」と所さんに頼み込んだそうです。しかし当初 所さんはきっと一時的なものだろうと思い、特に教える気はなかったのだとか。
しかし、北村さんは山道を車で1時間もかけて何度も白水湖畔ロッジへ通い、根気強く所さんにお願いをしました。
北村さんの熱意を感じた所さんはその願いを承諾。北村さんは住み込みでロッジの仕事をお手伝いすることになったのです!
北村さんのロッジでの経験はとても充実したもので、ロッジは岐阜県側の白山登山口にある唯一の宿泊施設としてにぎわい、
日々訪れる多くの観光客に食事や飲み物を提供しながら岐阜県での暮らしを楽しみました。
しかしそんな中、またしても北村さんに大きな転機がやってきます。
管理者の所さんは白水湖畔ロッジをやめ、心機一転、県内の郡上市で新しく「TOCORO COFFEE」をオープンされることになるのです。
北村さんもこれを機に、現在お住まいになられている郡上市に移住。「TOCORO COFFEE」のお店を手伝うことになりました。
冒頭にお伝えしたように、郡上市は自然豊かな土地で、冬にはスキーを楽しむためと県内外から多くの人が訪れます。
「TOCORO COFFEE」はメインのお店を構えながらも、スキーシーズン中の間、2つのスキー場で出張店舗を出店をすることとなりました。
そして北村さんはそのうちの1店舗の担当を任されることになったのです!
「スキー場で働くことになるとは思っていなかったけれど、いろいろな人と出会えるこの仕事が楽しいです!」
北村さんは笑顔で話していました。
スキー場で働く以前はウィンタースポーツの経験がなかった北村さん。
しかし今ではほぼ毎日開店前にゲレンデをひと滑り!それから開店準備をされているのだとか。
他にも空いた時間には自然の中で愛犬とのお散歩も楽しまれています。雪化粧をしキラキラと輝く林の小道を歩くのはきっと気持ちがよいのでしょうね。自然豊かな郡上市で、仕事も暮らしも両方を楽しまれていることが伝わってきました。
【もう一つの継業、自家製ベーコン作りに挑戦!】
北村さんが継業したのは「TOCORO COFFEE」のカフェ運営だけではありません。
なんともう一つ、郡上の地域に愛されるお店を引き継がれたのです。
そのお店は手作りベーコンの製造販売店「ベーコン小舎GRUN(グリュン)」でした。
「TOCORO COFFEE」で提供するコーヒーと相性抜群なのが、GRUNのベーコンを使ったオリジナルベーコンサンド!
このベーコンはマスターの安田瑞彦さんによる手作りの一品です。
添加物一切なし、塩だけで味付けした安田さんこだわりのベーコンなんです。
北村さんと安田さんの出会いも「TOCORO COFFEE」でした。
「TOCORO COFFEE」と「ベーコン小舎GRUN」はお互いに近い距離にお店を構えており、安田さんもお客としてコーヒーを飲みによく来店していました。
安田さんは「TOCORO COFFEE」にて北村さんとの交流を深める中で、お仕事中にあっても北村さんの手が空いている時間があることに気付きます。そこで本人に声をかけ、様々な製造過程があり多忙なベーコン作りの仕事を手伝ってもらうようになったのです。
北村さんは安田さんからおいしいベーコンやハムを作る技を学びました。これが、2つ目の継業へとつながっていきます。
2011年にひるがの高原に誕生したベーコン小舎GRUNの加工品は、マスターの安田さんによって丹精込めて作られています。
「やさしい味になる」とが選んだ安田さんこだわりのアンデスの紅塩を使い、少なくとも2週間以上のあいだ、豚肉を塩漬けして肉のうまみを引き出します。会社員として県内の食肉加工会社に勤めていたノウハウを生かし、本当においしいと思えるものを目指してきたそうです。
「うちの味がいいと言って来てくれる人だけでいいんです」と安田さん。自分が作りたいものにこだわることで、そのこだわりを理解して「おいしい」と喜んでくれる人たちが次第に増えていきました。
市内のホテルに卸したり、県外からもお客さんが足を運んだりと、その味を求め、GRUNには多くのファンがいるのです。
そんな地域内外から愛されるGRUN。しかし安田さんにはお店を開いた当初から決めていたことがありました。
それは【この事業を行うのは10年間のみ】ということ。
そして、その10年目。GRUNがなくなることを惜しむ声がたくさん寄せられていました。
辞めることは当初から自身が決めていたこと。しかし一方で多くの方々に愛されているこの事業をなくしていいものなのか。
安田さんは悩んでいました。
「TOCORO COFFEE」で北村さんと出会ったのは安田さんがそのような状況にある時のことでした。
GRUNが営業するラストイヤーでの偶然の出会いです。
北村さんも安田さんと地域の思いに賛同し、GRUNの味を受け継ぐことを決めました。
安田さんも安心されたことでしょう。
「彼女は真面目でしっかりやってくれる。もう8割以上はできている」と安田さん。
北村さんに事業を引き継ぐことで、安田さんの人生もまた新しく始まるのです。
【地方で暮らすということ。北村さんのこれから。】
北村さんはこれまでを振り返って、次のように語ってくれました。
「都会に住みながら休みの日に自然の中へ行くのではなく、始めから自然の中で暮らせばよかったんだと感じた」と。
スキー場のお店の営業は朝から晩まで。帰宅は深夜24時頃になることも。
雪が降る夜は帰宅後に除雪をしておかないと、翌朝家から出られなくなるほど雪が降り積もってしまうと言います。
しかし、北村さんのことをよくご存じな近所の方は北村さんの家の玄関先を除雪してくれていることもあるそうです。
『都会に比べ田舎暮らしは近所との付き合いが多く、面倒ではないか?』
地方への移住にあたってこの点を懸念される方も多いかと思われます。
実際にそのようなお付き合いは地域によって存在します。しかし本当に面倒なことばかりでしょうか。
そのお付き合いがあってこそ、感じることのできる地域の温かさがあるような気がします。
それはお休みの時だけ訪れていては感じることができないものであって、
地域の中でお互いに尊重しあい、支え合えば自然に囲まれた新天地で暮らすことも難しいものではないと思うのです。
「いろんな人にお世話になることでおかげさまで暮らしています」と北村さんは笑っていました。
しかし地域の方々にとっても、北村さんはお世話になっている地域の救世主なんでしょうね。
現在、北村さんはログハウスを建て、そこでコーヒーとベーコンを一度に提供する計画を進めています。
きっとその場には北村さんを応援する多くの人が集まることでしょう。
所さんと安田さんという魅力溢れる事業者から受け継いだ お店とあたたかな思い を新たな発想で提供できる日を北村さんは心待ちにしています。
「TOCORO COFFEE」のコーヒーと「ベーコン小舎GRUN」のオリジナルベーコンサンドの組み合わせ、ぜひ一度に味わってみたいものです。
今まさに移住を検討している、もしくは5年先、10年先にどこかに移住したいと考えている皆さま、
事業者と地域の思いを引き継ぎ、自身の発想でさらに発展可能な【継業】という新たな移住のカタチに挑戦してみませんか?
北村さんのような充実した地方暮らしが待っているかもしれません。
【事業承継を検討している皆様へ】
今回、北村さんは2つの事業を継業するにあたり、岐阜県の「岐阜県第三者事業承継補助金」を活用されました。
この補助金は事業承継、引き継ぎ後の新たな取り組みへの補助を目的としていて、他社の経営資源を引き継いで創業される人が活用することのできる「創業支援型」の補助金でした。
現在、こちらの補助金はすでに終了しておりますが、岐阜県の商工会・商工会議所では補助金のご提案とそれに係る申請書等の作成支援、他にもビジネスプランの作成支援等もさせていただくことが可能です。
北村さんも今回、郡上市商工会にサポートをいただき、協力して補助金申請に至りました。
ご興味のある方は移住となる市町村の商工会、もしくは岐阜県商工会連合会までお問い合わせください。