全国で初めての森林教育・学習機関として誕生した「岐阜県立森林文化アカデミー」。卒業生の山路今日子さんに、学んだことや現在のお仕事について、お話をおうかがいしました。
名古屋市内から車で1時間ちょっと。岐阜県美濃加茂市にある「みのかも健康の森」では、近年、世界的に人気を集め、日本では岐阜県が最先端をリードする〝グリーンウッドワーク〟と呼ばれる生木を使ったものづくりが体験できる。
「丸太を割って、まだみずみずしい状態の木を使ったものづくりです。やわらかく、スプーンなどちょっとしたものであれば、道具を使って手で加工しやすいんですよ」
と教えてくださったのは、親しみのある笑顔が印象的な山路今日子さん。
今年の4月から「可茂森林組合」に勤め、里山整備の事務仕事をしつつ、ここで木工のワークショップを開き、森のことを「伝える」活動もしている。
「木の魅力は、それぞれ個性があって、手で削ると、感触や硬さ、香りも違うことですね。木の種類を覚えると、山に入った時もこの木は何かな?と目がいくようになって、すごくおもしろいですよ」
山路さんは名古屋市出身。33歳のとき、森のことを学びたいと思い、見つけたのが、森と木に関わるスペシャリストを育成する専門学校「岐阜県立森林文化アカデミー」だった。
10年以上勤めた大手医療用装具メーカーを辞め、学校へ入学することを決め、岐阜県の美濃加茂市へと移住した。
「学校からはちょっと遠かったんですが、美濃加茂市は里山の整備に力を入れていて、のどかできれいな里山風景が残っているところが良いなと思い、暮らしはじめました」
転職や移住のきっかけのひとつは、地元の名古屋で激化する住宅開発だった。市内に残っていたわずかな山も舗装され、気がつけば、同じ家がずらりと建ち並んでいた。
「子どものときに、よく家族で山を歩きに行った楽しい記憶が原点にあるのかな。漠然と森林のことを伝えるお仕事がしたいな、と思ったんです」
実習で製作したお弁当箱。授業では、毎年、岐阜市内の店舗にご協力いただき、販売まで行う。
森林のことを伝える上で、知識をしっかり身に付けたい。「伝える」ためには何か武器があった方がいいと思い、林業・森林環境教育・木造建築・木工の専攻があるなか、具体的な技術を身につけたほうが、「伝える」ことがしやすいのではないかと、木工を選んだ。
入学してすぐ、まずは約70種類の木々を覚え、ノミとカンナの使い方を勉強。さらに、0・1ミリ単位の精度で正確に加工できる機械の使い方なども学んだ。
ものづくりに関しては、もともと手先が器用で、以前勤めていた会社でも、オーダーメイドでコルセットや足のサポーターなどをつくっていた。
そのことから、2年間でめきめきと上達し、才能を開花させた。
森林に関するあらゆるプロデューサーを育てる
「彼女は手先が器用で、うまかった! センスがありましたね」
と語るのは、山路さんを指導した久津輪雅先生。
20代はマスコミ業界で働き、30代で木工の世界に飛び込み、イギリスで家具職人へ。現在も日々、海外への視察を行ない、「木のものづくりの新しい可能性の開拓」をテーマに探求。日本におけるグリーンウッドワークの第一人者として注目を集める。
「うちの学校は、職人を育てるよりも、プロデューサーやコーディネイター、起業家と言われる人たちを育てたいと思っています」
久津輪雅先生。著書に山路さんと制作した『グリーンウッドワーク 生木で暮らしの道具を作る』。
参加者みんなで、木のスプーンをつくる「スプーンフェス」が世界的にブームと知れば、日本版を開こうと、現地担当者と連携し、「さじフェス」を開催。学生とともにイベント運営も手がけ、地域の人に参加を呼びかける。
そんな個性的な先生が多い。さらに、開学19年目を迎え、卒業生の間で、学科を超えたつながりが生まれ、地域にネットワークも。そのため、卒業後にも、森を使ったあらゆることにチャレンジしやすい。
最後に山路さんに、これからの目標をおうかがいした。
「美濃加茂市のみなさんに、すごく後押ししていただいているので、まずは地元の方に、木のものづくりを通じて木を身近に感じてもらいたいですね。それから山に入りたいな、という方を増やしていきたいですね」
岐阜県立森林文化アカデミーとは?
森と木に関わるスペシャリストを育成する、2年制の専門学校。全国で初めての森林教育・学習機関として、平成13(2001)年、「森林と人との共生」を基本理念として開学した。
岐阜県美濃市曽代88 https://www.forest.ac.jp/
敷地内にある「ウッド・ラボ」(木材棟)の作業室。大型木工設備が充実している。
2017年度の木造建築専攻の実習「自力建設」として建てられた「里山獣肉学舎」。林業専攻では狩猟の授業もあり、イノシシや鹿を解体する施設として利用されている。全て県産材。
学生に指導する、久津輪雅先生。学生には、30歳前後で脱サラした社会人経験者が多く、企画運営ができる人材が多く集まる。
「森のジョブステーションぎふ」のバックアップ体制
岐阜県における森林技術者の確保・定着支援の総合窓口として、林業に興味のある方々や、林業に新規就業した方々など全面的にバックアップしています。
岐阜県美濃市生櫛1612番地2
https://gifu-shinrin.or.jp/labor
【知る】
広く林業の魅力を知っていただく取り組みを行っているほか、林業に興味を持った方々に対して「林業就業相談」や「就業相談会の開催/出展」などを行っています。
【体験する】
実際に体験してみたい、という方々に対して「林業体感・見学セミナー」や「林業就業支援講習」などの機会を設けて、林業への理解を深める取り組みを行っています。
【学ぶ】
森林文化アカデミーで林業就業に向けて学ぶ学生に対して「緑の青年就業準備給付金」により、支援しています。
【就業する】
林業就業を希望する方々に対して、林業に特化した「無料職業紹介」や「求人情報検索サービス」などを提供しています。
【極める】
林業に新規就業した方々に対して「フォレストワーカー集合研修」などの各種研修を行っているほか、各種助成金などにより、新規就業者の定着などを支援しています。