2020年2月15日(土)の『TURNSのがっこう岐阜科』は「美濃和紙」がテーマでした。
参加市町村は美濃市、講師も美濃市在住の方と、まさに“美濃づくし”な一日です。
トークだけではなく、「美濃和紙」を使った“小さな灯り”づくりも行い、「美濃和紙」の魅力に触れる授業となりました。
冒頭の授業では、岐阜県について紹介。
岐阜県は、今回の授業のテーマでもある「美濃和紙」だけではなく、「刃物」や「美濃焼」「岐阜提灯」「飛騨春慶」などの伝統文化・伝統工芸が盛んな場所です。それらは、岐阜県が持つ良質な水資源、森林資源の恩恵から生まれたものでもあります。
また、最近では、今話題の大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公・明智光秀は、岐阜県可児市・恵那市が生誕の地とも言われており、光秀が学んでいた学問所や母親の墓所など光秀ゆかりの地は、光秀に関連するイベントなどで賑わっています。
次に、美濃市がどんなところなのか知ってもらうため、美濃市役所美濃和紙推進課の松並さんより、美濃市の概要をご紹介いただきました。
美濃市は、名古屋から約1時間のところにある「うだつの上がる町並」が有名な場所です。
江戸時代の商人の町で、和紙産業として財を成しました。 “これほどうだつが残っているまちは美濃市くらいだ”と多くの人は言います。
うだつとは、富の証拠であり、裕福な家でなければうだつを持つことはできません。それほどまでに、美濃市は和紙産業を中心に栄えていたまちであることが分かります。
そもそも「美濃和紙」とは、1300年前から脈々と続く、薄くて丈夫な美濃でつくられた和紙全般のことを言います。美濃和紙の中の「本美濃紙」はユネスコ無形文化遺産に登録されている手漉き和紙技術が施された和紙のことです。
世界に羽ばたき認められる「美濃和紙」。その技術を受け継ぐ人材も必要です。
美濃和紙の里会館では、「美濃和紙」の製造工程を紹介しており、紙すき体験や企画展を定期的に開催しているので、興味のある方には是非一度訪れて頂きたい場所です。
美濃和紙の里会館
http://www.city.mino.gifu.jp/minogami/
また、毎年秋ごろには、「美濃和紙あかりアート展」という日本全国各地から400点程の美濃和紙作品が集められる展示会が開催されます。これはコンテスト形式で、大賞賞金はなんと、50万円!いかに、美濃市や住民が「美濃和紙」に対して力を入れているかが伺えます。
美濃和紙あかりアート展
https://www.akariart.jp/
さらに、美濃市に来たら一度は参加して欲しいのが「美濃まつり」です。「美濃まつり」は、花みこし、美濃流し仁輪加(にわか)、山車(やま)、の3つからなります。
花みこしは、四隅を染めた「美濃和紙」を1ヶ月間乾かし、各世帯に配られ、各家庭や町内で協力して作られます。御神輿一台につき何十万個も必要なので、何時間もかけて一生懸命作り続け、地域の絆が深まっていくのです。
そして、もっと驚くのは太鼓と酒樽が同じ大きさであること!「美濃まつり」はお酒ととても密接に関わっているのだそうです。
この「美濃まつり」が大好きで、美濃市にUターンする人や移住する人もいます。
ここまでで、なんとなく、美濃市がどんなところなのか分かってきました。後半は、講師のお話により「美濃和紙」をもっと掘り下げていきます。
今回の講師は、美濃和紙職人である加納武さんと「らんたんや」を営む加納英香さんご夫婦です。
お二人とも、「美濃和紙」を支えている美濃市にとってなくてはならない人です。
まずは、加納武さんのお話です。
武さんは、確かな技術を持った人のみしか加入できない本美濃紙保存会に加入しています。武さんからは、まず「美濃和紙」の基本的な作り方を教えていただきました。
<「美濃和紙」をつくる基本的な流れ>
① 美濃和紙の原料は楮(こうぞ)です。楮を集め、その皮を蒸して剥いでいきます。
② 板取川で①をさらし、水の流れを調整するため石で囲います。そうすることで自然漂白されるとともに、アクが流れていきます。
③ 川で晒した②の白皮を煮ます。これを煮熟(しゃじゅく)と言います。2時間くらい煮ると柔らかくなります。
④ 柔らかくなった楮の皮のチリを、水の中で取り除きます。細かいゴミでも取るように気を配ります。この作業がいちばん根気の要る作業だそうです。
⑤ 粘液である叩解(こうかい)を作ります。原料はねべしでオクラと同じアオイ科の植物です。とろろあおいとも呼ばれています。
⑥ ゴミを取り除いた楮の皮を攪拌(かくはん)します。
⑦ いよいよ紙すきに入ります。⑤と⑥を混ぜ合わせ、揺らしていき、同じ厚みにしていきます。
⑧ ⑦が均等になったら、干し板に貼り付け乾かしていきます。
乾いた後は重ねて管理し、一年くらい経つと丈夫な和紙になるそうです。
このように、1枚の「美濃和紙」が出来上がるまでにおよそ一年間もかかります。
武さんにとって“和紙”とはどのようなものかと尋ねると、「ずっと昔から日本の風土にあり、原材料もやり方もほとんど変わっていない、伝統的な紙が“和紙”。」とおっしゃっていました。
「美濃和紙は、やっぱり水に恵まれていたんです。和紙は、とにかく水をたくさん使う。地域にある水質も大事なのです。」美濃市の風土、それは「美濃和紙」に必要なきれいで豊富な水がすぐ側にあること。薄くて丈夫な和紙を作るのに、これほどまでに適している地域は他にはないのです。
また、武さんは「美濃和紙」を漉き続ける理由をこのように語ってくれました。
「もともと手に職をつけたいと思っていました。和紙の中でも、模様がないものや無地の紙は技術が必要です。それは自分にとって、とてもやりがいのある仕事で、時間はかかるけど、いい紙がすけたときはとても嬉しいんです。」
美濃市の“水”がなくては完成し得ない和紙「美濃和紙」。それと、武さんの確かな技術が合わさって、最高の「美濃和紙」が出来上がるのだと分かりました。
続いての講師は、加納英香さんです。
小さい頃からずっと「美濃まつり」の花みこしを見て育った英香さん。“花がついている神輿が本当の御神輿だと思っていた”そうで、それほどまでに「美濃まつり」は美濃市の人々にとっては身近で、なくてはならないものでした。
英香さんは、独学で提灯を学び作ってきました。もちろん、美濃の手すき和紙を使ってです。和紙を貼って、乾かしていく。乾いたら木を抜いていく。提灯を作るにも確かな技術が必要ですが、現在は注文が入れば“型”から作れるようにまでなりました。
機械で作った和紙は、提灯の中のLEDが見えてしまいますが、「美濃和紙」だと楮の繊維があるのでLEDは見えないそうです。そうした「美濃和紙」の特性を生かして、いよいよ“小さな灯り”づくりが始まります!
英香さんのレクチャーに沿って、「美濃和紙」を糊付けしたり、折ったりしながらワークショップが始まりました。参加者の皆さんはとても真剣に、時には同じテーブルの参加者と談笑しながら、和気藹々と作業をしていきました。
旦那様である武さんも一緒になってレクチャーしてくださいました。
実は、英香さん、20名程の人にワークショップをするのは今回が初めてだそう。そんなことは微塵も感じさせないほど、会場は温かい雰囲気に包まれ、スムーズにワークショップは進行していきました。
出来上がったのは、手のひらサイズの“小さな灯り”!LED電球が透けることなく、ほんのり明るい、温かみのある作品に仕上がりました。参加していた子供たちも出来上がった作品を手に取ってにっこり。
美濃市の文化、風土、「美濃和紙」の歴史、だけでなく、少しだけ高貴な存在だと感じていた「美濃和紙」がとても身近に感じられた授業となりました!