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岐阜で活動する人、岐阜で暮らす人を毎回ゲストにむかえてこれからの暮らしをイメージしたり、おもしろい人や地域とつながるイベント「清流の国ぎふ暮らしセミナー」。ほぼ毎月、東京、関西(京都・大阪)、名古屋で開催しています。
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10月27日に、清流の国ぎふ暮らしセミナー(名古屋会場)「岐阜の森に関わるシゴトと暮らし」が、伏見駅近くの「moriwaku cafe」で開催されました。
森林率が全国2位である岐阜県は、県土の約8割を森林が占めています。
この日は、森と木に関わるスペシャリストを養成する専門学校「岐阜県立森林文化アカデミー」、会場となった「moriwaku cafe」を運営し岐阜県高山市に本社がある地域商社「飛騨五木株式会社」からゲストを迎え、森に関わる仕事や暮らしについてお話を伺いました。
チェーンソーだけじゃない!森に関わるシゴトはたくさんある
一人目のゲストは、岐阜県立森林文化アカデミー講師の杉本和也さん。木を伐採するところから搬出に至るまでの生産技術の教育に携わっています。
杉本さんには、森や木に関わる仕事について、森林文化アカデミーの卒業生の紹介を通して説明していただきました。
「林業」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、チェーンソーを担いで山で作業する人の姿なのではないでしょうか?
しかし、杉本さんは2つの軸で林業の仕事の幅広さを説明します。
杉本さん:「無理矢理作った図なので関係者の方は突っ込みたいところが満載だと思いますが、『林業』には様々な仕事があります。この図は、横軸は『森で働く』『街で働く』、縦軸が『計画や管理に関わる』『現場で働く仕事』です。」
「森で働く」の例として挙げられるのは、森林技術者の人たち。
森林組合やNPOなどの会社に所属しながら、現場で木を切ったり、機械に乗って仕事をします。
現場の仕事なので、朝は7時くらいに会社に集合し、夕方は冬は16時くらいに終わることが多く、残業もない会社が多いです。
また、林業の現場というと山に登って大変な思いをしてといるイメージがありますが、機械に乗りっぱなしでクーラーかけた中で仕事をすることもあります。」
続いての話題は「計画」に関わる仕事。現場で働く例として紹介された森林組合の中には、現場の人以外に、森林施業プランナーやフォレスターと呼ばれる森の計画や管理に携わる人がいます。
杉本さん:「なんでこういう人がいるかというと、森って育てるのに100年とか200年とかかるんですね。森づくりには、どの木を切るのかという計画が重要で、それには専門的な技術やノウハウが必要です。」
どの木を切ってどの木を残すのかを相談したり、道の計画に関わったりすることが多いそうです。
また少しマニアックなのが、苗木を作る仕事。
苗木を作る人が高齢化し減少していることや、開発で木を全部切る事例が増えていることに伴い、今苗木生産が注目されています。
中でもコンテナに入れて苗を育てる「コンテナ苗」の事業に新規参入する企業が増えており、これは重たいものを持ったりとか山に登ったりする仕事ではないため、女性が就職しやすいそうです。
他にも、公務員として働く人や、近年盛んなバイオマス事業、また木材市場で働く人など、一口に「林業」や「森に関わるシゴト」といってもさまざまな働き方を紹介していただきました。
木造建築から森の仕事を知ろう
続いてのゲストは、同じく森林文化アカデミーから、准教授の小原勝彦さん。
木造建築の中でも構造を専門とする小原さんからは「木造建築の耐震性を知ろう〜木造建築の課題からアカデミー教育へ〜」というテーマで、木造建築について話していただきました。
小原さんの専門は「建物が地震でいかに倒れないようにするのか」というもの。
日本では震災による死亡者数がとても多いほか、交通事故以外での不慮の事故の死亡数の場所を見ると、建物の中での死亡数が6割を占めているというデータもあり、建物の耐震性や安全性などの建物の性能設計は、とても重要なのです。
しかし、小原さん曰く「普通の住宅では、こういった性能設計が必ずしもなされていないというのが現状」なのだそうです。
小原さん:「建築基準法は、分かりやすく言えば『倒壊防止』といって、壊れていいけどグシャッとならないことが大事というものです。」
建築基準法にあたって、キーワードとなるのが「構造計算」。
地震などでどのように建物が変化するのかを計算するものですが、日本では2階建て以下の建物は、構造計算はしなくてもよいことになっているのだそうです。
小原さん:「日本の84.5%の2階建て以下の木造建築は、構造計算がされずに建てられています。つまり、安全性が検証されないまま建てられているのが現状です。」
森林文化アカデミーでは、木造建築や設計を学ぶさまざまな取り組みがなされています。
代表的なのが入学してすぐに行われる「自力建設プロジェクト」。
学生が自ら設計・施工し、敷地内に1棟建物を建てるというもので、優れた教育プログラムとして「2016年ウッドデザイン賞」「2007年建築学会教育賞」を受賞しています。
卒業生の中には、NPO法人を立ち上げて設計を行う人や、関東から岐阜に移住し工務店で設計に携わっている人がいるほか、自動車会社で車の設計をしていた人が建物の設計に転向したなどの例があるそうです。
森の地域商社!「飛騨五木」が作る木材のある暮らし
最後のゲストは、飛騨五木株式会社 企画研究室長の井上博成さん。
飛騨五木株式会社は、「ちいきで愛され、旅する五木」をビジョンに掲げ2015年に設立され、「2035年に当たり前に木材がある社会の実現」を目指しているそうです。グループ会社には株式会社井上工務店・H.P.Mグループがあり、不動産や金融、森林管理から製材・設計・建設・住宅管理などの、森に関する川上〜川下までの事業をおこなっています。
井上さんの出身地でもある高山市は、観光地として有名ですが、実は森林の多さも特徴の1つ。東京都と同じくらいの高山市の面積のうち、大阪府と同じほどの面積の森林があるのだそうです。
井上さん:「バイオマス発電所を見に行った時に本当に色んな木を燃やしまくっていているの見てました。祖父が山持っているのこともあって、山主さんの気持ちを考えると、違和感を感じました。切ってバンバン燃やすのではなく、もうちょっと木材として使われ切ったものを燃やすのがいいんじゃないかと考え、飛騨五木という会社で商社として価値提案できないかなと思いました。
事業のひとつに、高山で多く使われている建築材であるスギ、ヒノキ、ケヤキ、クリ、ヒメコマツの5つの木を売っていく事業部があります。
”地域で愛される”を形にするために、自社で商品企画をおこない、約200種類の商品を展開しているほか、高山市でカフェや飛騨五木の家という宿泊施設を運営しています。
井上さん:「moriwaku事業部では、北海道から沖縄の木を使っていく様々な事業をしています。moriwakuは日本の森がもっとワクワクの略称で、メディアを運営もおこなっています。
今は就職支援や森のものが買えるようになっていて、これから投資に関わることや、宿泊に関することもやっていきたいと思っています。ここで森のことを完結できるサイトを目指しています。」
2018年10月末には『moriwaku market』が岐阜県養老町と輪之内町にオープンそうです。
森に関わる仕事や暮らしに興味のある方は、ぜひカフェやお店に出かけてみてはいかがでしょうか。
3人のトークが終わってからは、ふだんカフェとして利用されている2階に移動して、moriwaku cafeのコーヒーや紅茶をいただきながら、ゲストや岐阜県・高山市への相談タイムとなりました。
木材に囲まれたリラックスした雰囲気の中、高山市への移住相談や木工産業での就労、森林就業支援講座の相談から、「岐阜県の冬の暮らしは厳しい?」といった疑問まで、さまざまな声が聞かれました。
「清流の国ぎふ暮らしセミナー」は、今後も名古屋・東京・京都・大阪で順次開催されていきますので、ぜひご参加ください!
また、林業の関連情報もぜひチェックしてみてください!
こちらから:https://www.gifu-iju.com/lifestyle/forestry
レポート担当:古井 千景(大学4回生/岐阜県出身)